広東省で見た社会の闇 医療費が前払いできないと
2016/08/29
日本に住んでいると、事故や急病の場合、緊急で治療が受けられると思ってしまいますよね。
しかし、海外では、そんなわけにはいきません。治療の前に、しっかり、支払い能力を確認されるんです。
そんなわけで、中国では、シビアすぎる現実を目の当たりにすることも、しばしばでした。
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行き倒れの男
中国広東省の工業地区に住んでいたころ、確か街に死体が転がっていたことがあった気がしますが、あれは本当に死体だったのか、記憶が定かではありません。
そこは、繁華街で、人々が日常に、買い物をしたり、飲食をしたりする場所でした。スーパーの隣に、ちょっとした砂地の空き地があり、男性が一人、うつ伏せで寝転んでいました。
顔が砂に半分、埋まっていました。鼻も口も砂に埋まっているので、呼吸ができる状態ではありません。半分ほど見える男性の顔の皮膚は、紫色というか、土色というか、生きている人間の皮膚の色には、見えませんでした。
死体かな?と、思いましたが、辺りの人を見ると、みな楽し気に、家族や友人と連れ立って歩いています。誰も、その男性を気に留める様子はありませんでした。
やっぱり、その人、ただ寝ているだけなんだろうか。
あるいは、行き倒れて死んだ人だろうか、と疑問に思いながら、私はその場を去りました。
たとえ生きていて、病院に運んだとしても、医療費の保証がなければ、医者は治療を拒否するから、みんな関わりたくないんだろうな、と悲しく納得しました。
工員同士の傷害事件
当時、小さな繊維会社の工場で、通訳を兼ねて、事務員をしていました。
ある日のこと、工員寮で、傷害事件が起きました。若い男性工員同士の喧嘩で、一人がナイフで、もう一人の腹部を刺して、重傷を負わせたというのです。刺したほうは逃げ、刺されたほうは、意識不明の重体で、近くの病院へ運ばれました。目撃者の話によれば、喧嘩が激しくなったのは、刺された方に原因がある、ということでした。
日本人上司が病院へ行くことになり、私も通訳として同行しました。もう一人、総務担当の中国人社員も、いっしょに行きました。
その工員を見舞うためではなく、医者に、治療費がいくらかかるか話を聞くためです。
医者に会ったとき、ちょうど正午になるころでした。医者は、「手術と入院が必要なので、保証金として、現金で2万元を納めなさい。」と言いました。保証金と言っても、全治療費の見積もりより、多めの金額を言われます。実質、前払い金です。
2万元と言ったら、怪我をした工員にとって、年収を軽く超える金額となります。総務担当の中国人社員は、「あの工員には、治療費は払えないので、会社で払うことになるでしょうね。」と、私に耳打ちし、それを私が上司に通訳しました。
いくら工員に非があって、傷害事件が起こったとしても、このまま見殺しにするわけにはいかないので、まずは会社で払うことになりました。しかし、そのとき、会社の金庫には2万元も入ってませんでした。
銀行へ行くにも、当時、中国の銀行は、昼休みを2時間とる習慣があったので、すぐに現金を用意するのは、不可能でした。医者に「銀行が昼休み中で、いま、お金の引き出しができません。今日中に必ず払いますので、治療を始めてもらえませんか。」と伝えました。
医者は、「何時なら支払いができますか。」と聞いてきたので、「2時半です。」と答えました。すると、医者は、「2時半なら、(命が)間に合うので、支払いが済んでから治療すればいい。」と、厳かに答えたのでした。すでに、応急処置はしてある、とのことだったので。
その後、重症を負った工員は、手術を受け、10日ほど入院したのち、黙って病院から去りました。治療費を請求されるのを恐れたのでしょう。
結局、刺したほうの工員も、刺されたほうの工員も、逃げて行方不明となりました。
おわりに
医者がかたくなに、前払いで医療費を請求する理由がよくわかりました。
そして、のちほど、上海で、日本人女性が、交通事故に遭い、医者に多額の現金で保証金を求められ、クレジットカードで払うからと言っても拒否され、治療を受けられずに亡くなってしまう、という痛ましい話を、日本人向けのニュースレターで知りました。
中国においては、緊急時でも対応してくれる、医療保険をしっかりかけておく必要がある、と再度思ったものです。
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